イリーナ・メジューエワさんのこと4

先日のこと、イリーナ・メジューエワさんのピアノリサイタルに出かけてきました。京都コンサートホールで、夜7時の開演。仕事帰りにも出かけやすい、私にはありがたい場所と時間です。

 

イリーナさんのことは、このブログでもたびたび書いています。「しののめ寺町」開店当初から、日本人のご主人様とよくご来店いただいている、大切なお客様です。お生まれはロシア。今年は、日本でのコンサートデビュー20周年の記念の年に当たられるのだとか。

 

クラッシックには全く馴染みのなかった私ですが、イリーナさんのリサイタルは特別。初めて出かけた時の感動が忘れられず、京都コンサートホールでのリサイタルは、年に一度の私の恒例行事になりました。(ブログイリーナ・メジューエワさんのこと3

 

ところで、月が大好きな私。なかでも鋭利に尖った三日月が、日を追うごとに膨らみを増し、やがて丸々とした満月になっていく…。その過程を見るのが、最近のお気に入りです(ブログ三日月)。

 

そろそろかなと思っていたところ、ちょうどリサイタルの日が満月に当たることを知りました。しかも、赤みがかった月。「ストロベリームーン」と呼ばれるのだとか。これはもうテンションが上がらない訳はありません。

 

いつにも増して高揚する気持ちで待つ開演。舞台に現れたのは、なんと赤いロングドレスのイリーナさんでした。これまでシックな色合いのドレスを召したイリーナさんしか知らなかった私は、驚いてしまいました。

 

スポットライトが当たると、白い肌が赤いドレスに照り返り、ますます透き通って見えます。艶のある栗色の髪。時々、キラリと光る髪飾り…。ただただ美しい。

 

今回の演目はベートーヴェン。華奢なお姿からは想像もつかない力強い演奏には、いつもながら驚くばかりです。幾重にも折り重なった深い音色は、時に激しく、時に優しく。心揺さぶられていきます。そして、私の中にいつもとは違う感覚が…。

 

あぁ、円熟していかれているんだな。芸術家として、人として、女性として。

 

音楽的なことはわからない私。あでやかな赤いドレスに、そう感じただけだったでしょうか。いえいえ、決してそれだけではなかったと思います。

 

おそらくは…、演奏は人そのもの。年齢を重ねるごとに、技術はもとより、その人となりも成熟し、女性であれば、女性としての成熟もまた加わっていくのでは。可愛らしさの残る女性が、大人の女性へと変容していかれる。その過程を、ピアノ演奏という形で味わえるというのはまた、芸術の醍醐味かもしれません。

 

まさに三日月が、日を追うごとに満月になっていくよう。熱い拍手に応え、赤いドレスで舞台に立つイリーナさんは、その夜の月の化身のようでした。

 

魅力的に生きる女性、素敵に年齢を重ねる女性は、年齢の上下を問わず、私の永遠の憧れです。イリーナさんの演奏に惹かれるのは、きっとそのせいです。そんなイリーナさんの演奏に、魂を突き動かされ、ここに自分の魂があるのだと実感したリサイタでした。

 

興奮冷めやらぬまま外に出ると、府立植物園の上、高い空に小さな満月。赤くは見えませんが、カメラをズームにして覗くと、月のまわりに赤い粒子が飛んでいました。コンサートホールから自宅まで、10分ほどの夜の散歩。何度も何度も月を見上げて帰りました。

 

翌日、早速ご夫婦で来店くださり、私の感想を拙い言葉でお伝えしました。すると、話は日本の伝統芸能に及びました。例えば、日本舞踊…。年齢を重ねるごとに高められていく芸は、日本ならではの奥深さにあるのかも、などと。

 

確かに舞いの立ち姿には、ご高齢になってなお、圧倒されるばかりの美しさがあります。日本でのコンサートデビューから20年。イリーナさんの魂は、もはや日本人なのではと思ったりして。

 

才能に恵まれ、自分の魂と向き合い、過酷な修練を積まれる芸術の世界。私には想像もつきません。が、私は私の魂に向き合って、私なりの修練を積む生き方をしていきたい。

 

赤い満月のパワーに触発されたのでしょうか、ちょっと艶っぽい、ドラマチックなリサイタルの夜となりました。