開いている人、閉じている人

起業以来、ずいぶん生活が変わりましたが、なかでも変わったことといえば、多くの人との出会いのチャンスが増えたことでしょうか。

 

大小様々の「異業種交流会」なるものがあり、誘われると出かけていくようにしています。業種は軟らかいのから、お堅いのまで。ただし大企業の方はおられません。一人で、あるいは数人規模の企業の方がほとんどでしょうか。毎回、多彩な方たちに出会えます。

 

初対面の方と手当たり次第に名刺交換…、こういうのって私は苦手だと思っていました。なにしろ趣味がひとり旅。できるなら秘境の地に籠って日がな一日、読書をして暮らしたい、そんなことを夢見ているような人間ですから。

そんな私ですが、今は宣伝が命。「しののめ寺町」のためと、出かけていたつもりでした。ところが、これ、結構、楽しいんです。

 

常々感じていたことなのですが、人には大別して、「開いている人」と「閉じている人」がいるように思います。

例えば、道で人に会って挨拶を交わすとして…。

 

「開いている人」は、たとえ名前は知らなくても、顔見知りというだけで笑顔で挨拶をしてくれて、たちまち互いの心が共鳴するのを感じます。

 

「閉じている人」は、よくよく知っている仲でも、互いの挨拶が届き合わないようなもどかしさを感じ、心がカクカク軋みます。

 

異業種交流会で出会う方たちは、一人残らず「開いている人」です。

 

パチンコはずいぶん昔に数回しかしたことがありませんが、チューリップと言うんでしょうか、玉が入ると、受け皿が開いて、玉がじゃんじゃん引き込まれていきますよね。皆さん、そんな感じ。至近距離に近づいただけで、両手を広げて受け止めてくださるような懐の広さ、ウェルカムな雰囲気を持っておられます。

ビジネスのため、と言えば、もちろんそれもあるでしょう。けれど、決してそれだけじゃないと思うんです。なぜって、心地良く感じるんですから。

 

商売は決して一人では出来ない…、皆さんがよく口にされる言葉です。

商売は厳しく孤独なものですが、だからこそ人の情けもよくわかる。

そんな経験をしてこられた方たちですから、新参者の私のことも優しく受け入れてくださるのでしょう。

 

私も目下、全開です!

 

 

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寡黙な名脇役

開店時にはたくさんのお祝やお花を頂戴しましたが、お酒もたくさんいただきました。

縦長の箱を斜めに抱えて入ってこられるや、すっと差し出される姿は、皆さんとても様になっていました。男性なら渡哲也、女性なら高島礼子に見えたものです。

 

さっそく飲んでみると、これが美味しい! 以来、毎晩、夕食時に冷やでいただいています。下戸のためぐい飲みに一杯ですが、すっかり日本酒の魅力にはまっています。

 

日本酒といえば、じゃこ山椒にも塩昆布にも欠かせないものです。

開店に当たり、調味料について改めて勉強しましたが、日本酒がいかに重要な役割を担っているか再認識したところです。

 

ちりめんじゃこや昆布が主役なら、日本酒はいぶし銀の名脇役というところ。

うちの日本酒、寡黙ながら主役を盛り立て、いい仕事をしてくれています。

調理場の中央にでんと置かれたその姿は、じゃこ山椒や塩昆布が炊き上がるのを、じっと見守ってくれているようにも見えます。頼もしい存在です。

 

ミニミニギャラリーで紹介しているように、飲み終わった瓶を使って店内にディスプレイしています。日本酒党のお客様と会話が弾むことも。そんな私たちをまた黙って見守ってくれているような。ホント、寡黙な名脇役です。

 

 

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親玉堂さん

早いもので7月になりました。

さかのぼりますが、皆さんは6月30日に和菓子「水無月」を召し上がられたでしょうか。

お彼岸のおはぎ、十五夜の月見団子など季節の和菓子は、美味しい思いをしながら手軽に風流も味わえ、なんといい習慣かと思います。

特に夏越の意味合いを持つ水無月は、夏が苦手な私には欠かせないもので、

これで夏を乗り切れる!

と、毎年、自己暗示をかけるように、気合を入れて噛みしめています。

 

残念ながら二年ほど前に廃業されましたが、買うのはいつもご近所の和菓子屋「親玉堂」さんでした。こじんまりと風情のある店構えで、通りかかると、もち米を蒸すいいにおいがしてきたものです。カランカランと下駄の音が聞こえたと思ったら、「おはよう!」とご主人に声を掛けられることも。

和菓子はどれも、くせのない上品な甘さで、年配のご夫婦の人柄とともに、地元で愛される和菓子屋さんでした。

 

今は行きつけの店はなく、今年の水無月は出かけたついでにデパ地下で買いました。それなりに美味しかったのですが、なにか味気ないものが。

店先での奥様とのなんでもない会話、出来立て手作りならではの美味しさ…、思い出されるのは、やっぱり「親玉堂」さんの水無月です。味の記憶は味覚だけにとどまらず、その向こうに、えもいわれぬ情景が伴うものなのですね。

 

自分が店を開いて、「親玉堂」さんがどんなにか素敵な店だったかを実感しています。

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