しののめ寺町

しののめ寺町

先日来、お知らせしていますが、3月16日に「しののめ寺町」は5周年を迎えることができました。当日は、思いがけずお花や祝電が届いたり、皆様から「おめでとう!」と声をかけていただいたり、とてもうれしい一日となりました。

 

そんななか、後日、こんなお祝いをいただきました。写真と見紛うばかりですが、ち密に描かれた絵です。作者は、5周年記念の【山椒まよねーず】でお世話になった「ユーサイド」の部長、深見信次さん。

 

写実的でありながら、手描きの温かみがあり、寺町通りの賑わいや空気感まで伝わってくるようです。雨風に晒されて染みのできた看板。日に焼けて色褪せた暖簾。店の佇まいが、見事に描かれています。

 

見慣れたはずの光景なのに、こうして見てみると、とても新鮮。なんだか自分の店であって、自分の店でないみたい。もはや私たちの手を離れ、店が店としてそこに存在しているような。5年は5年なりの風格というのでしょうか。ちょっと圧倒されている私がいます。

 

10年近く前、東京の美術館で不思議な絵と出会いました。残念ながら画家の名前は忘れてしまったのですが、「自画像」というタイトルだったか。画家である本人が扉を開けると、そこに自分が立っていた、という絵。狼狽している自分とは対照的に、向こうの自分は堂々として…。

 

この画家は想像ではなく、実体験を描いたんだろうな。絵そのものの記憶はおぼろげなのですが、そう思いながら見入っていたことは、よく覚えています。お祝いにいただいた絵を眺めながら、そんな古い記憶が蘇りました。

 

店を始める前、当時、寺町二条にあったギャラリーに個展を見に来たことがあります。この界隈に来ることが、あまりなかった私。案内状を頼りに、自宅から自転車で、寺町通りを南へと向かいました。

 

途中、魅力的な店が立ち並んでいて、なんて素敵な通りだろうと思いながら、自転車を止めては立ち寄り、立ち寄り。目当てのギャラリーになかなか着きません。ようやく個展を見終えた帰りは、反対側の通りの店に、また立ち寄り、立ち寄り…。

 

最後に立ち寄ったのが、今「しののめ寺町」がある場所の隣の雑貨屋さんでした。出てくると、外は薄暗がり。大慌てで自転車をこぐ羽目に。まさか何年か後に、この通りに店を構えることになるなんて、想像もしないことでした。

 

5周年と聞いて、「まだ5年 ?  ずっと前からあったような気がするわ」と言ってくださるお客様があります。私も、ふとそんな気がしたりして。

 

この絵を眺めていると、一見の客として、引き戸を開け、店に入っていってしまいそうな錯覚に陥ります。個展を見に来たあの時、「しののめ寺町」が既にここにあったとしたら…。惹き込まれるように、この店に入り、そうしてそこで、私は私と出会っていたかも。

 

そんな妄想を掻き立ててくれるこの絵、不思議な力を持った絵だなぁと思います。きっと深見部長が、建物のみならず、そこに漂う全てを描き切ってくださったからでしょう。心を込めて…。

 

この絵、店内の正面に飾っております。ご来店の折には、ぜひゆっくりご覧になってください。